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仙台高等裁判所 昭和24年(ネ)83号 判決 1949年12月07日

主文

原判決中第一審原告野宮衷の訴を却下した分についての本件控訴を棄却する。

原判決中前項の部分を除きその余を取消す。

第一審原告等の本件訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審共第一審原告等の負担とする。

事実

第一審原告両名代理人は昭和二十四年(ネ)第八三号事件につき「原判決中控訴人(第一審原告)敗訴の部分を取消す、被控訴人(第一審被告)青森県農地委員会が昭和二十三年五月二十六日附でした裁決中被控訴人(第一審被告)板柳町農地委員会において自作農創設特別置法により別紙目録二(一)(二)(四)(七)及び(六)の内一反五十三畝歩の土地についてした買収計画を承認する旨の部分を取消す、被控訴人板柳町農地委員会が昭和二十二年九月十一日自作農創設特別措置法により別紙目録一記載の土地についてした買収計画を取消す。」及び昭和二十四年(ネ)第八四号事件につき「被控訴人の本件控訴を棄却するとの判決を求め、第一審被告青森県農地委員会代理人は昭和二十四年(ネ)第八四号事件につき「原判決中控訴人(第一審被告)敗訴の部分を取消す、被控訴人等(第一審原告)の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」及び昭和二十四年(ネ)第八三号事件につき第一審被告両名代理人は「控訴人等(第一審原告)の本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、第一審原告両名代理人において、昭和二十三年五月二十六日第一審被告青森県農地委員会がした訴願棄却の裁決の告知を受けたのは同年六月十五日である。別紙添付目録一の土地については昭和二十二年九月十二日同二の土地については同年十一月一日各買収計画の公告があつたものである。右目録一の土地についても異議訴願の手続を採つた、即ち右目録一の土地の買収計画に対する異議申立は昭和二十二年十一月五日、第一審原告野宮衷所有の板柳町大字小幡字柳川三十一番畑四反八畝二十八歩(別紙目録第二の(七))の買収計画に対する異議申立と同時にこれをしその却下決定に対して更に訴願をしたのである。(乙第二号証の一、二)仮に本件訴が出訴期間経過後に提起されたものであるとしても本件買収計画は所謂在村地主である第一審原告等を不在地主として買収計画を樹てたものであるから法律上当然無効である。よつてこれが取消を求める次第であると陳述し、第一審被告両名代理人において、昭和二十三年五月二十六日第一審被告青森県農地委員会がした訴願棄却の裁決は同委員会から第一審原告等に対して同月二十七日書留郵便を以て発送し翌二十八日第一審原告等に夫々送達されたものである。別紙目録一の土地について異議訴願手続をしたとの主張は否認する。右目録一及び二の土地について、その主張の日に右買収計画の公告があつた事実は争わないが右目録一の土地の買収計画については第一審原告野宮衷から異議申立はなかつた。なお在村地主である第一審原告等を不在地主として買収計画を樹てたものであるから法律上当然無効であるとの主張は否認すると陳述した外、第一審判決摘示の事実と同一であるから、茲にこれを引用する。

(立証省略)

理由

別紙目録一の土地についての買収計画が昭和二十二年九月十二日別紙目録二の土地についての買収計画が昭和二十二年十一月一日第一審被告板柳農地委員会において、それぞれ公告されたこと、第一審原告両名は同年十一月五日同委員会に別紙目録二の土地の買収計画につき異議申立をしたところ同月二十三日棄却の決定を受け、同月三十日更に第一審被告青森農地委員会に訴願したところ昭和二十三年五月二十六日附、右訴願棄却の裁決のあつたことは何れも当事者間に争がなく、また本件訴が原審青森地方裁判所に提起されたのは昭和二十三年七月十二日であることは本件記録添付の訴状に押捺の受附印に徴してこれを認めることができる。

よつてまず、本件訴が法定の出訴期間内に提起されたものであるかどうかの点について考えるに、成立に争のない乙第七号証の一乃至五によれば、第一審被告青森県農地委員会は第一審原告両名(訴願人)の訴願を棄却する旨の裁決書の謄本を昭和二十三年五月二十七日第一審原告等に発送し、その謄本は翌二十八日何れも同人等に配達されたことが認められる。成立に争のない甲第五号証の一、二の記載内容によつては未だ右認定を動かすに足りないし、当審における第一審原告野宮義弘本人訊問の結果中右裁決書謄本が第一審原告等に届いたのは昭和二十三年六月十五日であるとの部分は当裁判所の措信し得ないところであり、他に前段認定を左右するに足る証拠がない。従つて特段の事情がない限り第一審原告等(第一審原告野宮衷についてはその法定代理人である第一審原告野宮義弘)は右裁決書謄本の配達を受けた日に右裁決のあつたことを知 たものと認めるべきであるから、自作農創設特別措置法(昭和二十二年法律第二四一号)第四十七条の二により本件訴中別紙目録二の土地についての訴願棄却の裁決の取消を求める訴は昭和二十三年五月二十八日から一カ月以内即ち同年六月二十八日までにこれを提起しなければならないのである。しかるに本件訴は右出訴期間を経過した同年七月  日に提起されたのであるから右訴は不適法として却下されなければならない。

次に別紙目録一の土地について買収計画の公告のあつたのは昭和二十二年九月十二日であることは前段説示のとおりであるが、成立に争のない乙第二号証の二(農地買収計画に対する異議申立書)によれば同原告の昭和二十二年十一月五日附異議申立の趣旨は昭和二十二年十一月四日板柳町農地委員会が発表した農地買収計画(第四次)の内所有者野宮衷名義に係る板柳町大字小幡字柳川三十一番林檎畑四反八畝二十八歩(別紙目録二の(七))を買収計画から削除することを求めるというのであつて、その以前になされた右目録一の土地についての買収計画(第三次)の取消までも求めた趣旨ではないことが明らかであり、第一審原告野宮衷の第一審被告青森県農地委員会に対する訴願及びこれに対する同被告の裁決も右目録二の(七)の土地について買収計画を対象とするものであることは、成立に争のない乙第二号証の一、二、甲第四号証により明白である。その以外に第一審原告野宮衷が右目録一の土地の買収計画について異議の申立又は訴願の手続をしたことについては何等の主張も立証もない。尤も右目録一の土地について買収計画の公告された昭和二十二年九月十二日当時は、行政事件訴訟特例法の施行前であるからして右買収計画に不服のある場合は必ずしも異議の申立、訴願等の手続を得ないでも裁判所に出訴することができたものと解すべきであるが、その取消変更を求める訴は、昭和二十二年十二月二十六日施行の自作農創設特別措置法附則第七条の規定により同法施行前に右買収計画を知つていた者にあつては同法施行の日から一カ月内に、また同法施行前右買収計画を知らなかつたにしても遅くとも同法施行の日から二カ月以内にこれを提起しなければならない。しかも一件記録によれば第一審原告は当初第一審被告青森県農地委員会だけを被告として本件訴を提起したのであるがその後昭和二十四年三月三日「一部当事者の変更請求趣旨訂正申立」と題する書面(記録第一、五、九丁)を提出し、あらたに被告として板柳町農地委員会を加えると共に同被告に対して第一審原告野宮衷の所有に係る別紙目録一の(一)(二)(三)の土地について同被告のした右目録一の土地についての買収計画の取消を求めるに至つたことが認められる。而して第一審原告野宮衷が第一審被告青森県農地委員会を相手として提起した本訴において当初から板柳町農地委員会の樹てた右目録一の土地についての買収計画の取消をも求めていた趣旨と解し得られるにしても、(本件訴状の記載からみてかようにみることは甚だ困難と思われるが)、従つてこの分の訴については被告を誤つたものとして行政事件訴訟特例法第七条第一項により被告を板柳町農地委員会に変更することが許され、期間の遵守についても同条第二項の規定によりあらたな被告板柳町農地委員会に対する訴は、最初に訴を提起した時にこれを提起したものとみなされるにしても、最初に本件訴の提起された時は前記法律施行後六カ月以上を過ぎた昭和二十三年七月十二日であることは前記のとおりであるから、第一審被告板柳町農地委員会に対して右目録一の土地についての買収計画の取消を求める訴も不適法として却下せざるを得ない。

第一審原告等は本件農地についての買収計画は在村地主である第一審原告等を所謂不在地主であるとして樹てられたものであつて、法律上当然無効であるから、本訴が出訴期間経過後に提起されたものとしても、なおその取消を求め得るものであると主張するけれども在村地主であるのに不在地主なりとして樹てられた農地買収計画が法律上当然無効であるとは解し得られず、それが違法であるとしてもその取消を求め得るに止まるものというべきであるから、出訴期間経過後はもはや右のような事由によつて買収計画の取消を求めることは許されないものといわなければならない。のみならず、第一審原告等の本訴中別紙目録二の土地に関する部分は直接にこの土地の買収計画そのものの取消を求めるのではなく、右土地の買収計画に対する訴願について第一審被告青森県農地委員会のした裁決が違法であるとしての取消を求めるものであることは、その主張自体に徴し明らかである。

以上説明の次第であるから、第一審原告等の本訴は本案請求の当否について判断するまでもなくすべて不適法として却下を免れない。

しからば原判決中第一審原告野宮衷の第一審被告板柳町農地委員会に対する別紙目録一の土地についての買収計 取消の訴を却下した部分は相当であるが、その他の請求について一部を理由ありとして認容し、一部を理由な   て棄却した部分は失当としてこれを取消すべきである。よつて民事訴訟法第三百八十四条、第三百八十六条、第九十六条、第八十九条、第九十三条を適用し主文のとおり判決する。(昭和二四年一二月七日仙台高等裁判所民事部)

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